一行遺言
お子様がいないご夫婦の場合、〝自分が亡くなったら、自分のすべての財産は当然配偶者に渡る〟と思っていらっしゃる方が少なくありません。
子どもと両親がいない方の場合、法定相続人は、配偶者とご自身の兄弟姉妹です。
遺言を遺さずにご自身が亡くなった場合、法定相続分に従い、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が併せて4分の1で相続することになります。
普段あまり付き合いのない義理の兄弟との話し合いは、妻にとっては大変な負担です。しかし、不動産の名義を変えるのも、銀行の口座を解約するのも、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。
また、兄弟姉妹の相続分を支払うために、最悪の場合、自宅を売却しなくてはならないこともあります。
「あとに残される配偶者の生活のことを考えたら、すべての財産は配偶者に遺してあげたい」という想いを持つ方も少なくないと思いますが、配偶者にすべて相続させたいのであれば、遺言を書く必要があります。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻〇〇(生年月日)に相続させる。
平成29年1月1日
行政 太郎 印
このような『すべての財産を〇〇に相続させる』といったシンプルな遺言を、一行遺言をいうことがあります。
お子様がいないご夫婦の場合、このような一行遺言でも大変役に立ちます。
なぜなら・・・
民法では、一定の相続人に対して『遺留分』を認めています。
一定の相続人とは被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹以外の相続人です。
つまり、兄弟姉妹には遺留分はないので、上記のような一行遺言があれば、想いのとおりに、配偶者にすべての財産を相続することができます。
上記のように、日付、名前、印鑑があり、全文自筆で書けば、自筆証書遺言として、形式的には有効です。
この一行が、『配偶者を守る』ことになるでしょう。
〝一切の財産〟とは?
一切の財産には、不動産・預貯金・動産などすべてが含まれます。
(又、遺言者に負債がある場合は、負債も引き継ぐことになります。)
さて、遺言者の妻は、遺言者の〝一切の財産〟をすべて正確に把握しているでしょうか?
たとえ長年一緒に暮らしてきた配偶者でも、遺言者の財産のすべてを把握できているとは限りません。
複数ある銀行口座や証券口座、生命保険契約等、『全ての財産が何か』を調べることだけでも大変です。
遺言書を作成する目的の1つに、『残された方の相続手続きをスムーズにしてあげる』ことがあります。
〝一切の財産〟という記載でも十分ともいえますが、例えば、預貯金口座を有する金融機関及び支店名を記載する等、財産の所在を明らかにしておくといったことは、相続手続きを少しでもスムーズにしてあげるために有益です。
【語句の意味】遺留分・・・一定の相続人に対して保証されている、遺言によっても奪うことができない相続財産の割合。